サウダーヂな夜

キッチン

  • BID98|2017年12月12日

母のキッチンは、私の入り得ない領域だった。昔住んでいた家のキッチンが、狭かったからかもしれない。そこは母の場所であり、私が入ることが許されない場所のような気がしていた。料理のお手伝いを一切しなかったのは、もしかしたらそういう思いがあったからなのかもしれない。(でも、ただ単にやりたくなかっただけなのかもしれない)

そして母は、片付けが苦手な人だ。キッチンには、蓋を開けたままの調味料とか、使いっぱなしの菜箸とか、いたるところにいろんなものが置いてあった。そして、いつも白くてふわふわした円型のなにかが落ちていた。なんだろう、これ。飾り紙のようなそれを、私はこっそり拾い集めた。大事にするわけではなく、ポケットに入れたそれがくしゃくしゃになって、捨てる、という繰り返しだったけど。

一人暮らしの今、私はお金が無くなると自分でお弁当を作るようにしている。きりさんみたいに上手にはできない、母みたいに手際はよくない、でもおかずを一品一品作る時間が楽しい。アルミカップの中に宝石みたいにきれいに入れて、お弁当箱にきゅうきゅうに詰める。アルミカップは、母みたいに銀色の安いのを使っている。

一枚めくってアルミカップを引き出すと、あの白くてふわふわした紙が出てくる。母のキッチンで見つけた円盤の紙。ふわふわしてて、ちょっと可愛いのになんの役にも立たない紙。今は集めることもなくすぐに捨ててしまうのだけれど、いつもあれを見るたびにしゅんとする。小さい頃、あれは母のキッチンだけに存在するものだと思っていた。美味しいものを作るための魔法のようなものだと思っていたのだ。だけど、それが今、私のキッチンにも存在する。しかも、私はそれをすぐに捨ててしまう。母みたいに出しっぱなしにしない、片付けができるのは良いことなんだけど、私がずっと見てきたのは、あのふわふわの落ちている何もかもだしっぱなしのキッチンなんだよな。

お弁当、久しぶりに作ろう、と思った。大学生活4年間で少しだけ料理スキルが上がった私は、ある程度のものなら作れるようになった。ヒバリ照ラスで、きりさんの料理の技を盗みながら、はたまた基礎(キャベツの千切りのやり方とか)を教えてもらいながら、少しずつレベルアップを図る日々だ。


いつか誰かのために料理をする日が来るのかもしれない。母のように、夫のために子のために。忙しい毎日の中で、私はキッチンを散らかしっぱなしにするのかもしれない。そんな未来が少しだけ待ち遠しい。

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香具師 Profile

川上まなみ

岡山で暮らし始めて4年目。大好きな本を部屋に増やしながら生活しています。短歌を作っています。

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