サウダーヂな夜

贈り物の気づき方。

  • BID39|2016年12月05日

この世界には、リボンが可愛い贈り物ばかりじゃなくて、わかりにくくて見過ごしてしまいそうな贈り物もある。それは丁寧に包装されているわけじゃないから、すぐには気づけないんだけど、1日が終わった時の気分がやけにキラキラとしていて、あれはプレゼントだったのか!と自覚する。そして心の中で「ありがとう」とつぶやく。

冬の合間の晴れた日のこと。

前日に突然「船に乗る?」と聞かれて「乗ります!」と軽い気持ちで返事をしてしまったのが、すべての間違いだと思った。なんでもふたつ返事で、ひょいひょい付いていってしまうのが私の悪い癖。これまで何度も失敗してきたのに、今日も懲りずにやってしまった…と赤い服を着てうろちょろと浮かれている城主を横目に、私は付いてきてしまったことを心底後悔してしまう。私は今、知らない人の中にぽーんと放りこまれ、そしてとても遠慮がちに隅っこで存在を潜めている。

悶々としているうちに、南の方から万国旗をはためかせた青くて小さな船が京橋の川岸にやってきた。船体を前後にぎったんばっこんと揺らしながら。その頼りない風景は、まるで私の行く末を案じているようで苦笑いを隠せない。ああ、不穏だ…。

私は何かの集まりでひとりになって、アウェー戦に挑むようなちくちくした時間がすごく嫌いだ。その場から逃げ出したくなるし、実際に何度も逃げ出してきた。だけど、今日は逃げることもできない。だってこの小さな船は出発してしまうから。これから過ごす2時間をどうやり過ごそうか、憂鬱ばかりが私の心を占拠した。

船に乗って席につき、自分の所在がはっきりとして少し落ち着いたのも束の間、隣にいた城主は一瞬でいなくなった。席には私と見知らぬ男性が残る。偶然隣り合わせたその男性は、お洒落で柔らかい雰囲気を纏った方だったけど、一般的に言わせてもらうのであれば、いわゆる「おじさん」だった。つまり、私はこれからこのおじさんとこの船旅を過ごす。先のことばかりを考えて、ずっしりとした気分を抱えていたら、おじさんの方から気を遣って話しかけてきてくれた。

見た目通りの柔らかい物腰で話すそのおじさんを、そういえば私は一度見かけたことがある。その安心感で素直になって話せたのかわからないけど、いつの間にか自分の言葉が引き出されていることに気づく。例えば、マジシャンが向こうまで飛び出した万国旗をたぐり寄せていくような感じで、そのおじさんはおかしな会話で私の言葉を引っ張り出していく。私より随分と年上のはずなのに、つたない私の話に耳を傾けて、そして私より少年のようになっておしゃべりを始めた。気がつけば「どうも距離を感じるなあ。」なんて冗談を言われてしまい、海と雲と風、それからカモメ、色んな組み合わせで、私は初めてのデートに出かけた気分になって少しドギマギした。

船での時間はあっという間で、そのうち山の向こうに日が暮れ始めた。そこでみた、びっくりするくらいに真っ赤な茜をした夕日は、私たちの気持ちを落ち着かせた。異様なくらいの赤が私はとても不思議だった。おじさんは「茜色って、朝焼けと夕暮れのどっちの色だろうね。」と言った。私は「茜色の夕日ってよく言いますね。」って答えたけど、本当はどっちだろう。そして、それならば朝焼けの赤はどんな言葉を使うのだろう。

日が暮れて、すっかりと暗くなった京橋に、私たちが降りた船は懐かしく光る。ビニールのチューブの中に規則正しく並んだネオンに喜ぶおじさんをみて、やっぱりおじさんだなあと思った。「文系だなあ。」と楽しそうにカテゴライズするところも、おじさんみたいで微笑ましかった。過ごした時代も性別も違うのに、同じものを良いと思える空間がそこには確かにあったと私は信じている。おじさんはしきりに「感性だ。」と言っていたけど、だとしたらそれは接点のない人たちを繋ぐ大事なツールだなと思った。

というわけで、私は誕生日だった城主から、気づかぬうちに贈り物をされていた。ひどい人だと思っていてごめんなさい。そして、そのおじさんから純粋な優しさを受け取った。このまま眠りにつくのはもったいなくて、夜を歩いていきたくて、私はそのまま夜の電車に乗り込んだ。贈り物は相手のことを考える行為だ。最初に声をかけてくれたおじさんは、きっと少しでも私のことを思ってくれたのだと思う。私もプレゼントできているのかな。そういう時間を、瞬間を、茜の空を、私も贈り物が大好きな人になろうと心に留めた。

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香具師 Profile

きり

サウダーヂな夜スタッフ

ひょんなことから毎週日曜日「サウダーヂな夜」の昼営業にて働くことになりました。城下をぶらぶらする際には、ぜひ私の話し相手になってください。もしくは面白い本もあるのでふらりと読書に寄っていただけたら。

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